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2025-04-22 16:00:00

トラウマインフォームドケア

 

トラウマ(心的外傷)とは、「個人の力では対処できないような外的な出来事を体験したときのストレス」とされています。

一般的なストレスは、時間の経過や状況によって軽減したり無くなりますが、トラウマは長期間残って心身に様々な影響を与えます。

ただし、同じ出来事を経験しても、その人個人の捉え方や、ストレス耐性、社会的サポートの有無によって、トラウマになる場合とならない場合があります。

 

トラウマ的出来事には、生命を脅かす出来事(自然災害や事故、犯罪、暴力、性暴力、虐待、戦争を直接的に体験する、また誰かが被害にあうのを目撃する)が挙げられています。

日本では、約6割の人が、このようなトラウマ体験をしているといわれます。

それによって、PTSD(外傷後ストレス障害)<日本の生涯有病率は1.3%>やトラウマ関連障害を発症することがあります。

 

また、少し広い意味でのトラウマ(こころのケガ体験)となると、その割合は更に大きくなると考えられています。

たとえば、子ども時代に経験したあらゆるトラウマ(虐待やDV、いじめ、親の不在、収監、家族の自殺・精神疾患・薬物乱用など)も広い意味での「トラウマ」に含まれます。

いずれも逃げられない状況、繰り返されることで起こる慢性的な傷つきです。

また、不安定な愛着スタイルが不安定な人間関係を呼び寄せトラウマが重なることで、生きづらさやメンタルの不調を引き起こすともいわれます。

トラウマが長期にわたると、感情や行動や身体的反応のパターンとして残り、深刻な影響を与えるのです。

しかし、どのような体験がトラウマとなるか、それがどのように影響を与えているのか、目に見える体のケガと違って心のケガは、本人も周りからも分かりにくいものです。

 

 

近年、多くの人がトラウマ体験を持っていることを前提にして考える、トラウマインフォームドケア(こころのケガに配慮するケア)が日本においても注目されています。

医療・保健・福祉・教育・司法などの様々な分野で、過去のトラウマ体験が今に影響しているのかもしれないという視点を支援者が持ち、こころのケガについての知識や対応を身に着け再トラウマ化を防ぐものです。

 

 

さて、トラウマによる体の反応として、私達は危機状態に陥った時、闘う(Fight)、逃げる(Flight)、固まる(Freeze)という3つ の反応を示します。

これは、動物一般に備わった本能であり、自分の身を守るために起こる反応です。

そして、トラウマやこころのケガを思い起こさせるような出来事(リマインダー)を経験したときにも、いずれかの反応が起こることがあります。

一般的には、理解できない行動や言動も、その人にとっては、トリガー(引き金)となっている可能性もあるのです。

 本人にとっては、危機状態であるかのように反応するのですが、周囲は平常であるため例えば、その場にそぐわない攻撃的な行動(Fight)や、過度に消極的な行動(Flight)、何も感じていない(Freeze)かのように映るでしょう。

 

 

身近な人や支援者は、トラウマやこころのケガへの理解と生活への影響について知識を持って関わり、もしかして・・という気づきを持つことが求められます。

トラウマティックな経験を聞き出すことではなく、治療するのでもなく、トラウマの知識を持って「いま あなたに何が起こっているの?」という眼差しで、相手の行動を理解しようとアプローチする。

周囲には問題と思われるような行動や振る舞いも、本人にとっては何らかの理由があると捉えてみる。

それには、支援者自身の固定観念に捕らわれない柔軟さと、謙虚な姿勢が必要になります。

当事者は、自己主張や選択の権利を奪われてきたことを理解し対等な関係を目指すことが大切です。

 

また、支援者も無力感を抱いたり、自分のトラウマ体験と重なって感情移入しすぎたり、怒りや不信感を向けられたりして逃げたくなったり、関わりを避けたくなったりと間接的にトラウマの影響を受けることがあります。

そんな時にも、トラウマインフォームドケア(TIC)が役に立ちます。

自分の気持ちに気づくことができる、できたことに目を向けてみる。

緊張や不安があれば、「私にいま何が起きている?」と自分に向き合い身体に意識を向けていきます。

呼吸はどうなっている?力が入りすぎていない?とモニタリングする。

身体に気づけば、息を整える、力を抜くなどのセルフケアができます。

 

そして、当事者がひとりでは回復できないように、身近な人や支援者もひとりではサポートできません。

無理のない支援を行う、支援者同士が尊重し合い助け合い、チームとしてどのようなことができるかを安心できる場で話し合う。

 

話し合いは、無理に話さなくてよいこと、誰かを責めるものではないことを保証する安全な場であることが必要です。

そして、十分な休息が取れ、ストレス解消ができるなどの職場環境を作るのが重要となります。

ケアするものがケアされる場が求められるのです。

 

トラウマインフォームドケアに取り組むとは、当事者にとっても支援者にとっても、トラウマ体験から回復する力を信じ、誰かと繋がりながら自分のコントロール感を少しずつ取り戻し、選択肢を増やしていく。

本来、誰もが持つ力を引き出していける、しなやかな社会を作ることに繋がっていくのだと思います。

 

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