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トラウマインフォームドケア
トラウマ(心的外傷)は、日常的によく耳にする言葉となりました。
生命を脅かされたり、心理的に強い負荷がかかるような出来事(自然災害や事故、犯罪、暴力、性的被害、戦争、家族や友人の死など)を直接的、間接的に体験する。
いずれも個人の力ではどうにもならない外傷体験によって起こりうるものです。
(ただし、同じ出来事を経験しても、その方の捉え方や、ストレス耐性、社会的サポートの有無によって、トラウマになる場合とならない場合があります。)
更に、子ども時代に経験したあらゆるトラウマ(虐待やDV、いじめ、親の不在、収監、家族の自殺・精神疾患・薬物乱用)も含めると、外傷体験を持つ割合は大きくなると考えられています。
トラウマが長期にわたると、感情や行動や身体的反応のパターンとして残り深く影響を与えます。
しかし、どのような体験がトラウマとなっているか、それがどのように影響を与えているのか、目に見える体のケガとは違って、本人も周囲も分かりにくいものです。
さて、多くの人がトラウマ体験を持つことを前提にして考える、トラウマインフォームドケアが日本でも注目されています。
医療・保健・福祉・教育・司法などの様々な分野で、過去のトラウマ体験が今に影響しているのかもしれないという視点を支援者が持ち、
こころのケガについての知識や対応を身に着け、更なる傷を防ぎ支援していくものです。
私達は、危機状態に陥った時、闘う(Fight)、逃げる(Flight)、固まる(Freeze)という3つ の反応を示します。
これは、動物一般に備わった本能であり、自分の身を守るために起こる反応です。
そして、トラウマやこころのケガを思い起こさせるような出来事(リマインダー)を経験したときにも、いずれかの反応が起こることがあります。
周囲には理解できない言動も、その人にとっては、トリガー(引き金)となっている可能性があるのです。
身近な人や支援者が、トラウマやこころのケガを理解し日常生活に与える影響について知識を持って関わる。
周囲には、理解し難い行動や振る舞いに、本人にとって何らかの理由があるのではないか?という気づきを持つことが求められます。
「いま あなたに何が起こっているの?」という眼差しで、相手の行動を理解しようとアプローチするのです。
それには、支援者自身の固定観念に捕らわれない柔軟さと、謙虚な姿勢が必要になります。
当事者は、自己主張や選択の権利を奪われてきたことを理解し、対等な関係を目指すことが大切です。
支援者の関わり方は、自分を安全に守ろうとしてくれるという感覚を相手に与えることでもあるでしょう。
とはいえ支援者も無力感を抱いたり、自分のトラウマ体験と重なって感情移入しすぎたり、怒りや不信感を向けられたりして逃げたくなったり怒りをぶつけ返したくなったり、関わりを避けたくなったりと間接的にトラウマの影響を受けることがあるでしょう。
自分とは違う存在を、理解できない受け入れられない、それは当たり前に起こります。
時には、相手に対する嫌悪感、拒絶感を持つことに自責感を持つこともあるかもしれません。
そんな時は、「私にいま何が起きているのだろう?」と、まずは相手と間隔をあけ、そして自分と間を取ってみます。
相手の言動を受けて、私に、いまこんなことが起こっているんだなと。
緊張や不安、怒りや混乱など、いま感じていることに気づいていきます。
そして、身体に意識を向けていきます。
呼吸はどうなっている?力が入りすぎていない?地に足は着いている?と注意を向けてみます。
そうすることで、息を整える、無駄な力を抜くなどセルフケアに繋がる行動をとることができます。
また、一人で抱えず周囲に応援を頼むこともできるようになるでしょう。
トラウマインフォームドケアに取り組むのは簡単なことではないかもしれません。
しかし、当事者にとっても支援者にとっても、安全な環境で誰かと繋がりながら自分の内に安心感を育て、自分のコントロール感を少しずつ取り戻し、傷を持ちながらも選択肢を増やしていける。
本来、誰もが持つ力を引き出す、しなやかな社会を作ることに繋がっていくのだと思います。